坪井直氏2016年インタビュー(ToFuture2016)

坪井直さん インタビュー
広島県被団協理事長 日本被団協代表委員

2016年6月23日 
今年も被団協の理事長、坪井さんにお話を伺うために平和会館へ行きました。
今回は初めてのTO FUTURE制作に参加してくれる本間くんを同行して。
挨拶を交わしながら、インタビューの準備を始めたところ、坪井さんとの談笑の中で、いきなりの本題へ繋がる話が出てきたので、急いでテープを回しながらお話は始まります。

INTERVIEWER & TEXT by Guy 大小田
Guy 大小田(以下G):早速ですが、先日(5月27日)、オバマ大統領と会われたときのことについてお話を聞かせてください。

坪井さん(以下敬称略):オバマさんが平和公園に来られる際に、誰を列席させるかを選ぶのが、難しかったようですね。
最後の最後まで人選が行われていたようです。
(5月10日に広島訪問を正式にホワイトハウスが発表したものの、スケジュールや内容については、米国世論も踏まえて、直前まで調整が続けられていた。)
一概に被爆者と面会といっても、誰でも良いわけではないですからね。
松井市長と湯崎県知事がアメリカの外務大臣と協議したと聞いています。
県知事が日本の被爆者の代表ということで、広島県被団協の坪井にしようと言われたと聞きました。

GUY 湯崎県知事の推薦だったんですね。

坪井:日本全国にまたがった被爆者の団体の代表だから出席すべきだと言われ、私に一番に列席のオファーが来たんですが、それが3日前です。(5月24日)
日本被団協には私を含めて、代表委員が3人います。先方からは、4人の枠があったのですが、長崎の谷口稜曄代表委員が病気で入院中だったので、同じく長崎の田中熙巳事務局長、東京の岩佐幹三代表委員と私に決まりました。

―オバマ大統領当日―
私は午後2時に平和公園へ着きました。
こちらの印象としては、オバマさんが、伊勢志摩サミットを終えてから、岩国へ立ち寄り、米軍基地でのスピーチを終えた後、(平和記念公園に)間違いなく来ると情報が入ってから準備を始めた感じですね。
(私とては)オバマさんより先に座って、待っておかないとね。平和公園へ着くまで、オバマさんの詳しいスケジュールを知らなかったのですが、あらためて聞くと資料館への訪問の時間が書いてあったんです。15分しかなくて驚きましたね。正直、15分で見てなにがわかるのかと?
被爆者との対面とか話し合う時間とかも書いてなかったですし、今回は被爆者との面会はないのかと思いました。
ある意味気楽な気持ちになりましたね(笑)

―5月27日午後5時過ぎ オバマ大統領平和記念公園到着―
(オバマさんが来られた時)、私は慰霊碑の角の席におりました。その席で、オバマさんと安倍さんが(慰霊碑へ)献花の後、声明を話すのを聞いていました。(声明を)長いことやりましたのう(笑)
(声明の間)外務省の人から、両首長が献花して声明を話した後に、一言二言オバマさんと会話をしてくださいと言われました。

GUY 最初はあの場面(全国放送で両者が向かい合った印象的な対面)は想定してなかったってことですか?

坪井:そうです(微笑)
でも私は席順表を見たとき、(スケジュールにはなかったが)オバマさんが私と直接会ってくれるのではないかと思ってはいたんです。

私の隣の席は森重昭さん(注1)という方で、全財産をつぎ込んで(被爆死した米軍)捕虜の関係者をアメリカに行って探した方でした。
オバマさんと対面したとき、彼は感極まって何も話せなかったようでしたね。

注1:森重昭さん(79)は、8歳の時に広島で被爆した。
 米国を恨んだこともあったという森さんは「被爆の痛みに敵も味方もない」との思いから、被爆の混乱で散逸した記録や関係者の証言を40年近く丹念に集め続け、広島で被爆死した米兵捕虜らの最期を調べ上げたことで知られる。
 米兵捕虜の親族との交流を描いたドキュメンタリー映画「ペーパー・ランタン(灯籠流し)」が今年2016年、完成し、日本でも上映された。

まず、私がオバマ大統領に話したことは
「謝れ」とかは一切言いません。
なぜならば、私たちはそういうことはすでに乗り越えております。今日は広島に来ていただきありがとうございました。感謝しております。あなたが来られたことを大歓迎しております。
そして、広島に来られ、資料館を観られて、(いま)私の話を聞こうとしておられます。
原爆問題というのは本物(資料館)を見たり、本当に原爆を受けた人の話を聞いてから初めて全体像が分かるんです。それにしては(見学)時間が短かったですなぁと(笑)

GUY 確かに(笑)

坪井:そこで、初めてオバマさんが笑ったんです(笑)
続いて私は言いました。
あなたは来年1月には大統領の任期が終わります。そうすれば、少しは自由な時間ができるでしょう。
これからは度々広島に来て、しっかり(資料館を)観て、(被爆者の言葉を)聴いてくださいと伝えました。
そうすると彼は「そうだそうだ」と大きな声を出して満面の笑顔を私に見せてくれました。
そして私はこうも言いました。
あなたは「核兵器のない世界」{注2}を作ると言いました。私たちも核兵器廃絶を死ぬまで訴え続けているのだと。同じ道です。決して別の道ではありません。人類の為に共に頑張りましょうと伝えました。
その瞬間、大きな声で「サンキュー!」と言ってにっこりと笑ってくれたのです。
そして、最後にこう付け加えました。
今回(広島訪問)が終わりではありません。(核廃絶は)これからです!!

周りの方は私がオバマさんに対して何を言うのかドキドキしていたかもしれないですね(笑)
何しろ原文がないのですから(笑)

注2:プラハ演説 2009年4月5日、チェコ共和国の首都プラハのフラチャニ広場にて、アメリカ合衆国大統領バラク・オバマが核廃絶へ具体的な目標を示した演説のこと。

GUY:あとからTVで見たのですが、とても良い場面だったと思います。

坪井:オバマ大統領との対面が終わった後、全国各地から多くの電話やはがきもいただいたのですが、私について悪く言う人も、ダメ出しをする人もおりませんでした。よくやったと多くの人から言ってもらえましたが、実際にオバマさんに会う、こちらは内心はドキドキでしたよ(笑)
後日、安倍首相からも松井市長を通じてですが、「素晴らしいことを言ってくれました」とお礼を頂きました。
すぐさま、松井市長に、伝えていただいたお礼に伺いたいと言ったら、まだ東京におりますと(笑)。直接、安倍首相から聞いてすぐに連絡をくれたみたいですね。

私たち日本被団協は、謝罪の要求をしないことを2日前(5月25日)に決めたんです。
苦しいことはこれまでに、色々あったけれども、それを乗り越えて、未来志向で行こうと話しました。その決定を踏まえて私はオバマさんと話したのです。

GUY その前には謝罪ありきとかの話はあったのですか?

坪井:数は少ないけど、ありました。
しかし(会議での話しあいで)、こちらが謝罪を要求すれば、(アメリカ側は)真珠湾の件を持ち出すでしょうしね。そうすればお互い喧嘩腰になるし、どちらが正しいなんて「神のみぞ知る」ですからね。
もう、そういうもの(恩讐)を乗り越えて私たちは人間同士なのだからということを話しました。
オバマさんは声明の中で、「アメリカ」という言葉は使わなかったですよね。
常に「人類」という言葉を使っていました。
我々「人類」がこれまで間違ったことをしてきたと。そしてこれからは良いことは残し、悪いことは捨てていく未来志向の話をされていました。
だからこそ、私も「人類」のために共に頑張りましょうと、彼に言ったんです。
お互い自分の国だけのことを言ったらエゴが出ますからね。
少数ならともかく、今回の様な、公の場所では出す必要はないと思うんです。
自分の経験でいえば、戦争が終わったこともわからないくらい(原爆)にひどい目に遭っていますからね。
被爆してから、ひと月以上、意識がなかったのです。(当時は)毎日、死と隣り合わせで生きてきたんです。三度の危篤状態も乗り越えました。今も癌や心臓病と闘っております。
それでも、私は謝罪を求めるより、平和が一番大事なのだと思っています。

GUY オバマ大統領を直接間近に見られた時の印象、人間としてのオバマ大統領をどう感じられましたか?

坪井:彼は、握手の手を(最後まで)放さなかったんです。
私という、いち被爆者に対して、手を放したら転げるかもわからない。そういうところは周りに見させたくない、だから彼は手を離さなかったのだと思います。
(坪井さんは近年、足腰が弱られて移動の時は杖を持ち歩いておられます。)

一方的なこちらの感じ方かもしれませんが、そういう彼の気持ちが伝わってきました。
この人は私を庇ってくれている。そして、握った手が暖かかった。こういうことができる人は何を言っても大丈夫だと、そう思える人でしたね。それで私も思うように話すことができました。彼もわたしの話を聞きながら3回ほど歯を出して笑ってくれたんです。
そのときオバマさんの正味が見えた気がしました。丁寧な人間なんだなという印象を受けました。
人類の歴史では肌の色が違うこと(人種)が問題になっておりますけど、彼にとっては関係ないのだと思います。
あの人にとっては小さい国だろうが大きい国だろうが区別なく対応してくれる人物だと思いましたね。
先日のベトナムへの訪問もそう。かつて戦争をしていた国に赴き、国民に演説したでしょう。
(2016年5月24日、ベトナムの首都ハノイで同国民に向けて演説した)
キューバへの訪問もそうです。
(2016年3月20日~23日 キューバ訪問。現職米大統領のキューバ訪問は88年ぶり。1959年のキューバ革命以来続いた対立の歴史において、大きな転換点になると期待されている。)

かつて敵対していた、その人達と手を取り合う。それはオバマさん以外では成し得なかった事です。
人間をあるいは人類を、人類として尊ぶということをわかっている大統領だからだと思います。

GUY そのオバマ大統領の任期が切れ、新たなアメリカの首長を決める、今度のアメリカの選挙についてお聞かせください。

坪井:(アメリカの選挙に対して)まだ研究や勉強が足らない部分はありますが、共和党のトランプ候補の勢いがありますよね。若者層を含め、政治について詳しくないであろう層が後押しをしているのではないかと私からは見えます。
民主党のクリントン候補については、そろそろ、アメリカ初の女性大統領がでてきても良いかなとも思いますね。
富裕層を優遇しているようなところも見えますしね。
彼女も、初めからオバマ路線を継承するって言ってくれたら、より良かったんですがね(笑)

今のアメリカはテロの問題とEUからのイギリスの離脱の件もありますよね。まず、EUが落ち着かないと、選挙どころじゃないだろうと思いますね。(インタビューの翌日の6月24日、イギリスがEUから国民投票で離脱を決定)
アメリカ国内にイギリスの離脱が影響を与えないわけはないのですが、トランプ候補はその件には触れないですよね。彼は頭がいいのか、悪賢いのかはわかりませんけどね。
(後日、トランプはイギリスの離脱を受け、「米国も真の革命を得る機会だ」と声明を発表。
既存体制からの脱却を求める潮流を自身の支持拡大に利用する意図があると言われている。)

GUY トランプ候補には大統領になってほしくないと思われますか?

坪井:あの人は極論を持ち出しますからね。政策も、核兵器廃絶について一言も言っていないでしょう。
だから我々の考えとはあわないです。言うこともコロコロ変わりますしね(笑)

アメリカを含め、世界が抱えている問題でいえば、IS(イスラム国)ですね。この問題をどのように収めるかこれが今後の大問題だと思います。
ISがこれから何をするのか?そしてそれをどう収めるのか?とにかくこの問題に話がつかないと核兵器どころの問題じゃない気がします。
そういう組織に武器や資金を供給したりする国があるから余計問題を複雑にしているのだと思います。

GUY 戦争が経済に結び付く考え自体が、一因だと思います。

坪井:私もそう思います。今のように爆弾を落としたり、破壊することを解決方法とせずに、まずは対話をするためにお互いを理解しあう場を用意したり、それをまとめる人がでてくれる事が大事だと思いますね。

GUY 戦争より対話ってことですね。
日本でも尖閣諸島の件から国防の話が(安保法制を中心に)頻繁に出てきてるじゃないですか。そのことについてお聞かせください

坪井:わたしから見たら(政治家が)日本のことばかりを見ている気がします。世界がまるで見えてない。
いつも叩かれて先延ばしにして誤魔化す様な外交は私からすれば0点ですよ。
日本の中で2/3(の議席)を取って憲法を変えるとかあんなことばかりやって外(アジアを含めた諸外国)との関わりがないですからね。そんな事を続けていたら(世界の)孤児になると思いますよ。だから株価もガンガン下がったりするんではないでしょうか。
留めようと思うなら、もっと強い気持ちで諸外国とやっていかないとね。でも今は逃げ回っている様にしかみえない。東南アジアや欧州の問題にせよです。
消費税にしても先延ばし。こちらから見れば上げない方がよいかもしれないが、それでは経済も行き詰ってしまう。お金を(日銀で)ただ刷ればいいってもんじゃない。
それは外交に問題がある!相手がいて物事がおきる。この感覚が首相に足らないのではないかと思います。

GUY 外交努力がたらないと。

坪井:もっと世界的な視野をもって様々な問題と取り組まないといけないと思います。無利子(日銀のマイナス金利の導入)でやりますとか、その場その場で誤魔化しながらやっている様じゃだめだと思います。
TPPでの交渉もそうです。
外国に対してはちゃんと交渉して、国内に対してもこの件は承諾してくれと説明すれば痛みを分かち合うこともできる部分もあると思うんです。そういうことをできる首相じゃないといけないと思います。
(わたしから見ると)周りを固めることばかりしているように見えますね。
そのかわりあの人の良いところは色々な国へ行っている事ですね。
(5年かけた小泉首相の48回の外遊と僅か2年弱で抜いたこと)
でもそれ(回数)だけじゃダメなことに、気づいてくれると良いのですがね。
(諸外国の外遊と比べ、中国、韓国との交流が少ないこと:2013年第二次安倍政権発足から、平成27年0月31日~11月2日に開催された韓国での日中韓サミットが一度きり)

(団体として)政治、経済あるいは宗教のついての発言はしないように言われているんですが、人間はこれらを切り離しては生きていけませんからね。基本的なことは言いたくなるますわな(笑)
私も90を超えましたし、いつまでも元気でおれるかわからんですからね(笑)

GUY:坪井さんには、これからもお元気でいてもらわないと。先頭に立って核廃絶に向かっていただきたいと思っています。
これからの被団協の未来について教えてください。

坪井:被爆者の平均が80歳を超えますからね。これから被爆者はどんどん少なくなるわけです。ですから、私たちは被害を訴えるだけでは駄目だと思いますね。私たちに残された時間には限りがありますから、一刻も早く核廃絶を目指さなければいけないと思います。そのことをメインに(原爆体験の)継承も大事にしていこうと思っています。
ところで今回の記事はどこら辺に載るのかな?

GUY:巻頭を予定しています。

坪井:私は真ん中あたりが良いのう。巻頭は照れますな(笑) 

GUY 本間:(笑)

坪井;毎年この冊子に載るのも縁だと思いますよ。
私はいつも(あなた方に)会えるのを楽しみにしておるんですよ。そうじゃないのもおりますがね(笑)
あなた達も体だけは大事にしなさいよ。活動するのも体が資本ですからね。

GUY 本間:ありがとうございます。

本間:それではこの冊子を読んでいる読者のみなさんにメッセージを頂きたいのでよろしくお願いします。

坪井:自分を信ぜよ、そして他者を信じよ。
今の時代は全部自分自分でしょう?エゴばかりでは駄目ですよ。そういうのは良いこと繋がらないと思うんですよ。だから他者を信じて繋がっていかなければね。自分を信じることだけでも大変ですがね。でもそれをやっていかなければいけない。もちろん私もね。

GUY:最後にいつものお言葉をお願いします。

坪井:(笑)
ネバーギブアップ!!!!

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