2018年6月29日、梅雨の中、一時の晴れ間が見えた午後二時過ぎに、被団協へお邪魔しました。
8月6日、9日、15日に向けてご多忙な中、坪井さんに今年も大切なお時間をお借りさせていただいたのです。
広島医師会のインタビューを終えたばかりの中、人懐っこい笑顔で私を迎えてくださった坪井さん。
ユーモアを交えた世間話から、これまで辿られてきた人生の一端を垣間見れるお話も聞かせてもらいながらインタビューは始まります。

Interview & Text by GUY a.k.a. 大小田伸二

坪井直さん(以下継承略):これまで、中国やアメリカ、インドなどいろいろなところに行きましたね。
ハワイに訪れた時は真珠湾攻撃の跡地にも行って、日本軍の攻撃で家族を亡くされた方にも会いました。戦後14、5年経った頃だと記憶しています。
被団協として海外へ行ったことも数多くあります。そこで偉い人たちにも合うのですが、私が半日ほどの自由
時間で会いたいのは、いつの時も虐げられている人たちなんです。そういう場所や人に会わないと、訪れた国
の本質もわからないですからね。私は必ず訪れるようにしています。

Guy a.k.a. 大小田伸二(以下G):ありがとうございます。話は変わりますが、広島市名誉市民賞(※注1)を受けられたと聞きました。おめでとうございます。

坪井:本当にありがたいことです。(そのことは)テレビに沢山扱われたのですかね?
知らない人からも(受賞について)お手紙を頂きましたから。(考えてみれば、被爆者のなかでは)私は長生
きしてますからね。(被爆したときは)危篤状態も三回やって入院も十回くらいしましたしね。
耳も(被爆以来)このままだし(※火傷の跡が残る耳を触りながら)、このころはよく聞こえなくなってきましてね。
(原爆が落ちた時に)左目をやられたんですが、右目は大丈夫だったんです。
これまで右目ひとつで(平和に向けて)頑張ってきたのが評価されたんですかね?ありがたいことです。
しかし(活動を支えてくれた右目も)このころはよく見えなくなってね。91歳までは裸眼で新聞読めていた
のですが残念です。

G:自分は既に裸眼では新聞が読めません。その強靭さと行動に改めてリスペクトさせてください。
そして、先日行われた北朝鮮とアメリカの首脳会談(※注2)についてどう思われるのか聞かせてください。

坪井:米朝関係が前進したという意見もありますがね。(両国の間で)何も具体的なことが決まっていないでしょう。手放しではとても喜べないですね。

G:坪井さんが考える今の世界の状況についてお聞かせください。

坪井:これまで我々被団協が先導して、被爆者援護と核兵器廃絶に向かってきたんですね。
原爆にやられた者にしか伝えれないことがありますからね。
生身の言葉でしか伝えれないことがある。しかし、被爆者はそのうちいなくなることは事実でしょう。
ですから違う方向でも反原爆を伝えれる方法を考えているんです。
これまでは、ネバーギブアップの精神をもってそれに向かってきたのですが、最近はその内容が変わってきましたね。
核兵器禁止条約も採択されて、(庶民の)世界の流れはいい方向に向いてきていると思うのですが、国単位で考えると未だ戦争が必要であると考える国と、必要でないと考える国との差が激しくなってきているのを感じるんです。
(ですから)問題は既に核兵器だけではなくなってきていると思います。それは、人を介しない無人兵器や
AI(人工知能)による攻撃などに表されていると思います。(せっかく採択された)核兵器禁止条約にしても
未だ批准している国が少ないのが現状でしょう。(採択した核兵器禁止約を国内の条約、法律と照らし合わして改めて国をもって正式に認めることを批准(ひじゅん)といい、まだ10ヶ国しか批准していない)
人間以外の動物は、こんなこと(核兵器の使用、保持を含む兵器を使った戦争というもの)はしませんよね。
仲間同士で争うことはあっても、お互いを全滅させようという生き物は人間以外、何処にもいません。だから
(平和という目標に向けて行動していくには)核兵器廃絶だけを追いかけていてもしょうがないと思うのです
。核兵器廃絶ももちろん大事ですよ。私はやられてますから余計にね。
(被爆から73年経っても原爆症について)医学の視点から見てもまだまだ分からないことがあるのが現状ですからね。
どうすれば、人類と戦争を切り離すことが出来るのかと真剣に考えています。

G:原爆の不必要性を、たとえ被爆者でなくても、今を生きる人たち、そして子供たちへ継承していくことの大
切さ。世界から核兵器を、ついては戦争を無くしていくことの意義を痛感します。それでは今インタビューの
締めとして、この冊子を読んでいる方にメッセージを頂けますか。

坪井:あなたたちのような人に会うと元気をもらえます。わたしは大きな出版社より、あなたたちのような自主出版社から頼まれたインタビューの方がうれしいんです。それにしても、これまで、よく続けてこられましたね。
みなさん、決して諦めずに「NEVER GIVE UP!!」これに尽きます!

※注1:2018年2月16日、広島市は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員で、広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)理事長の坪井直(すなお)さんに、名誉市民の称号を贈る方針を決めた。市は「核兵器廃絶や被爆者援護の充実に長年取り組んだ」と、理由を説明している。(毎日新聞WEB版より抜粋)

※注2:2018年米朝首脳会談は、2018年6月12日にシンガポールで開催された、アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国の両国トップによる首脳会談である。両国の首脳が直接顔を合わせるのは史上初のことである。(ウィキペディアから抜粋)