アメリカと同盟関係を結んでいる日本が条約に参加すれば、核保有国に関係している各国の意識も変わっていく- 川崎 哲 氏 インタビュー

核兵器禁止条約 (Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons、TPNW) のことを知ったのは2011年のこと。上関原発抗議運動で知り合った現ハチドリ舎の主宰、安彦恵理香さんが発行した冊子「NOW」からでした。それから6年後の2017年7月17日に条約は国連で採択され、前年広島クラブクアトロで開催したSTHフェスでタテタカコさんによって演奏された被爆ピアノは海を渡り、オーストリアはウィーンにて世界中に平和の調べを奏でてくれました。テレビで見た光景はとても感動的だったことを覚えています。そしてそれから3年、条約発効に必要な50カ国の批准を経て今年1月22日に

条約は発効を迎えました。

その発効に多大なる力を尽くしたICAN (International Campaign to Abolish Nuclear Weapons) 国際運営委員の川崎哲さんに4月22日、ZOOMを使ったリモートインタビューで、核兵器禁条約について様々な角度から語っていただきました。

interview by 大小田伸二 aka GUY

大小田伸二(以下G):はじめまして 本日はよろしくお願いいたします。

今年1月に発効された核兵器禁止条約についてお聞かせください。それと、川崎さんは、ICANとして長い間、核兵器禁止条約成立に尽力してこられたと聞いております。発効までの流れを聞かせてください。

川崎哲さん(以下敬称略):この条約が発効されるまで核兵器を全面に禁止する条約というのはなかったんですね。削減いうのは減らすことであってゼロではない。不拡散というのは(核保有国から見て)これ以上保有国を増やさせないということだから部分的な禁止にしかならないんです。それではあまりにも不十分だということで、核兵器禁止条約に向けての動きが始まったわけです。

:いつから始まったのですか?

川崎:2010年です。「核兵器は非人道な兵器である。誰のものであれ、どのような使われ方をしたとしても取り返しのつかない非人道的な結末を迎える。」ということを基本に動き始めました。
それまでの様々な核に関する条約は、核兵器そのものが悪いというよりも核を保有している国同士でなんとかバランスをとっていこうという考え方だったんです。
私たちは、核を保有する国ではなく核兵器そのものが持つ非人道性に着目して、いかなる国もどんな場合に於いても誰も使ってはならない、持ってはならないということを訴えてきました。その中で核兵器を法的に禁止する為に正式な国際法として成立させようと、2015年、2016年と議論を重ねていきました。そして2017年7月、国連で採択され、今年の発効となったわけです。

:条約の中身、目的について聞かせてください。

川崎: 核兵器を作ること、持つこと、使うことだけでなく、それらに協力する(核使用の援助等)ことも禁止する、つまり核兵器に関わる事全てを禁止するということです。(第一条)
そして保有国が条約に賛同するならば、廃棄に向けての道筋を定めていくというものです。(第四条)
核の非人道性に重きを置き、核兵器により被害を受けた人々を援助する。(第六条)
それらの前提として、これまでに被爆者や核実験被害者が受けてきた苦しみに心を留める、という表現が盛り込まれています。(前文)
長崎、広島の被爆者が長い間訴えてきたことが、ようやく国際法に反映されたということが言えると思っています。

:条約発効後の世界の流れについて教えてください。

川崎:この条約の発効で、核兵器の非人道性ということ、つまりそもそも核兵器自体が悪いという意識が国際規模で広がってきたと思います。
例えて言えば北朝鮮の核問題がなぜ問題になるかというと、悪い核兵器を作ろうとしているからですね。ところがその悪い核兵器を米中ロをはじめ核保有国は持っています。仮に北朝鮮が核開発をやめると発表しても核保有国が持っている限り問題は解決しないわけです。
そういう意味において、誰が悪いということ以前に核兵器が存在すること自体が問題なのだということに世界中の人々の意識が向いてきていると思います。

核兵器廃絶を長い間訴えてきた広島や長崎の人たちから見れば、当たり前だと思われるかもしれません。しかし残念ながら、世界では、遠い広島、長崎という地で昔、苦しんだ人がいる、くらいの認識しか持っていない人が多かったんです。それが今回の発効で世界人類すべてにとって許されない兵器なんだという認識に変わってきています。これを法的に言えば、核兵器は国際人道法違反だということです。核兵器禁止条約というのは国際人道法としての側面を持っているわけです。「核兵器の非人道性」が広く知られてきたのだと思います。

かつて奴隷制度は廃止されましたよね。奴隷制度なんて許されないものだということは、今では世界共通の価値観となっています。しかしそれは、人々の意識が変わったから無くせたのです。奴隷制度と同様に戦争自体を廃止することが一番なのですが、そこに辿り着くまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。そこに至る一歩として「人の道から外れた核兵器は、どんな理由があろうとも許されない」ということに人々が気付き始めたのだと思います。発効をきっかけにして人々の意識が変わってきていることが重要です。そのことを1つ示す大きな事柄として、世界の銀行が変わってきています。

発効後、ヨーロッパをはじめ世界の銀行の多くは核兵器に融資することを禁止し始めました。
人権侵害や環境破壊を助長するような企業に融資をしないのと同様に、核兵器を製造する企業への融資をやめ始めているのです。これは条約による大きな効果だと思います。その流れは日本の銀行でも始まっています。一番最初に発表したのは、りそなホールディングです。(2018年秋)
現在日本の17の銀行が核兵器製造企業には投資しないという指針を持っていると表明しています。(注1)
17銀行の中で、メガバンクの一つである三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が非人道兵器として、核兵器製造に対する融資を禁止することを明記しました。(2020年7月1日から適用)

これは非常に歓迎すべきことなのですが、MUFGの場合、核兵器製造自体への融資は禁止するが、核兵器を作っている企業の他の事業への融資は禁止していないという部分が問題だと思っています。しかしながら世界に冠たる金融企業が核兵器製造への融資禁止を掲げてくれたことに対して、私は第一歩として歓迎したいです。
これから核兵器を作っているような企業へは融資を一切しないということが広がっていけば、企業は核兵器製造から撤退していくでしょう。
銀行以外でも、日本の生命保険主要4社(日本生命保険、第一生命保険、明治安田生命保険、富国生命保険)が昨年、核兵器製造に対しての融資をしないガイドラインを持っていることを共同通信に対して答えています。

:条約採択~発効の流れを受けて、これまでの金融機関の考えから大きく変わったのですね。

川崎:そうなんです。経済界では、たとえば児童労働などをやらせている企業へは融資しないというルールがある様に、核兵器に対しても融資をしないようになってきましたが、この根拠として、国際法が大事なんです。国際法で禁止されていることが、融資禁止に動く客観的な根拠になるのです。核兵器は昔から倫理上いいものではなかったのですが、それが今回正式に国際法によって禁止されたわけですね。これによって企業は核兵器を作らない、銀行は融資をしない、という指針を作っていけます、そして事実、そのためのガイドラインが次々と出来上がってきていることが重要です。経済界でこれまでになかった新しいルールが生まれてきているのです。

:条約発効に対して政治より経済のほうが先に反応しているわけですね。

川崎:政治より経済界の方が動きが速いんですよね。政治的にみると皆さんもご存じのようにアメリカや他の保有国の政府が参加していないし、日本政府もそうですよね。対して経済界は、禁止条約が発効したという事実に対して敏感なわけです。世論の反発を受けたら商売になりませんからね。

G:資本主義が核兵器を無くすきっかけになるということですね。

川崎:そうともいえますね。ですが軍事へ加担する経済の流れがもう片方にあります。軍事ビジネスは非常に強固ですからね。しかしながら私たちの生きている21世紀においては、そうそう悪いものはのさばれない時代だと思うんです。その一番悪いものが核兵器ということです。
軍事企業同士もルールを作らなければならないという意識が強くなってきていると感じています。それを示す事柄として、少し逸れますが、2014年12月24日に発効した武器貿易条約(ATT)について話させてもらいますね。
この条約は武器貿易自体を禁止するのではなく、武器が不法な形で取り引きされることを取り締まろうというものです。それまでは武器貿易に関して野放しな部分が多く、所謂”死の商人”達が横行してきたのです。
この動きは平和活動家たちが起こしてきたものですが、その一方で軍事企業側もそれを求めたんです。

武器を売っている側も一定の良識とルールを持っていないと自分達のビジネスが続かないことを認識しているんです。今はそういう時代、社会になってきてるわけです。

:軍事、武器産業の意識変換に対して、武器貿易条約に続くのが今回の発効後の動きにもなるわけですね。

川崎:そうです。もちろん戦争や兵器のない世界を私達は目指しているのですが、その中で一番悪いもの(核兵器)を排除していこうというのがこの条約の目的ですし、発効は重要な一歩だと思っています。

:日本政府は条約を署名、批准しないだけではなく、米国の核兵器先制不使用についても反対しています。
唯一の被爆国でありながら、何故政府はこのような立場をとっているのでしょうか?

川崎:条約が出来たことで、今の日本の姿が浮彫りになったわけです。毎年、8月6日、9日の平和式典で国民の前で核兵器廃絶を訴えながら、非核三原則の裏でアメリカとの密約(注2)もあったように、日本政府は対外的には平和を訴えながら、アメリカには核兵器で守ってくださいというダブルスタンダード(二重基準)が昔からあったわけです。今回のことでその問題が多くの人により明確にわかってしまいましたね。

今までこの問題(二重基準)について国民的な議論というものが欠けていたんじゃないでしょうか。大小田さんと同じく、多くの国民は、何故被爆国として日本は核兵器禁止条約に批准しないのだろう?と思っています。ここで私たちに必要なのは、政府に対して「本当にアメリカの核兵器が必要ですか?」「他の方法はありませんか?」と問いかけることです。今回を契機に、二重基準について国民的議論ができるチャンスでもあると思っています。

日本の政治家に尋ねると、アメリカの強力な軍事力がなければ日本はやっていけないと固く信じていますね。その強力な柱として核兵器はなくてはならないんだということも信じているようです。ならば、署名、批准した54ケ国は何故できたのか?どの国も自国の安全は考えた上で参加したわけですからね。そういうと政治家たちは、すぐに中国、ロシア、北朝鮮の脅威論を持ち出すんでしょうけど、禁止条約を批准した54の国々だって隣国、周辺国とは様々な問題を抱えているわけです。でもその問題解決に核兵器に頼らない方法を選んでいるから、核兵器禁止条約に参加しているんです。

54の国々にできて日本にはできない。それはなぜなのか、それは変えられないのかということについて真剣に議論しなければならないと思います。

:条約を批准した54ヶ国の多くは非核兵器地帯(注3)に参加していると聞きました。被爆国である日本は率先して参加しないのでしょうか?

川崎:南半球のほとんどは非核地帯となっています。非核地帯として、平和と安全が保たれているわけです。日本の政治家たちは、この現実を見ようとしていないのか?それとも本当に知らないのでしょうか。

(資料参照:南半球の殆どの国々は非核兵器地帯に参加していることがわかります。対して核保有国はすべて北半球に集中していることもわかります。)

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参照元:Wikipedia内 アフリカ非核兵器地帯条約 CC 表示-継承 3.0, リンクによる

:今現在、日本には非核地帯の構想がないのでしょうか?

川崎:日本を含めた北東アジアにも非核地帯を作ろうという動きは1990年代より民間からありました。日本、朝鮮半島(韓国、北朝鮮)、中国、ロシア、アメリカを巻き込んで、北東アジア非核兵器地帯(注4)を作ることを政府に提案しているのですが、まだ実現には至っていません。

:日本政府は、これから核兵器禁止条約にどう関わっていけば良いと思われていますか?

川崎:先ず、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバーとして参加することができると思います。第1回の締約国会議が来年1月に開催される予定ですが、ここには、条約の非締約国すなわちまだ署名・批准していない国もオブザーバーとして参加できます。
核兵器廃絶という最終ゴールは一緒だよ、ただ道のりに違いがあるんだよ。というのが今の日本政府の言い分ですよね。

「核のない世界」を実現するためには、最終的には禁止条約に入らないとわけです。核兵器廃絶がゴールならば締約国会議はそのためのステージなわけですから、それに参加しないとプレイヤーになれないわけです。日本政府は現在、核の抑止力が必要だと強く思っていて、それは簡単には変わらないと思います。米国との関係もあり、時間はかかるでしょう。しかし、締約国会議で議論されることとして、核実験の被害者に対する援助ということがあります。被爆国として、このような援助を行うことはできると思うんです。核実験の被害に対して、日本がこれまで蓄積してきた知識を資料として提供するとか、医師を派遣するとかいったことです。それは日米関係や安保の問題とは別にできるはずなんです。一方でそういった貢献をしていき、もう一方で核抑止力への依存を段階的に減らしていくことができると思います。

:多くの国民が願っている日本政府の条約への迅速な署名、批准というのは現時点では難しいのですね。

川崎:国家安全保障戦略の中ではっきり核兵器に依存するということを言ってますからね。(注5)

憲法の中で戦争や武力を否定しながら、国家安全保障戦略で核兵器を求めることは大いに矛盾するのではないかと思います。しかし、その依存から脱却するには大きな政策転換が必要になると思います。様々な閣議決定を経なければいけないことだから大変ではあるとは思いますが、政府には時間をかけてでもやっていただきたいと思っています。

:条約発効を受けて国民の反応が少ないように感じることがあります。条約の利点より現時点での問題点の方が知られているようにも思うのですが、どう感じておられますか?

川崎:より多くの人達に条約のことを知ってもらう為、ICANとしても自分達で出来ることは最大限やっているつもりなのですが、もっとアピールできるはずだというアドバイスやお叱りもうけることはあります。

TV、雑誌を含むメディアに取り上げてもらうのは効果的ですが限界もあります。公共放送であり、影響力も大きいNHKもこの条約について取り上げてくれてますし、記者の方は最大限頑張っておられます。しかしながら、まだ国民に広く伝わり切れていない部分がある。それを伝えるためには、まだ発信していないところに向けて発信する必要があると思います。そのひとつの方法として、国民それぞれが持つ大小様々なメディアで発信して、共有することが大事だと思います。圧倒的多数の国民が条約を支持していますが、それでも声をあげる人は少ない。かたや、少数だけど影響力を持った人達が条約に反対の声をあげている。それを変えるためには今黙っている人たちが声をあげていくことが必要です。

:来年年明けからNPT(核拡散防止)再検討会議がニューヨーク国連本部にて開催されます。対して核兵器禁止条約第1回締約国会議が来年春頃にウイーンで開催されると聞きました。この2つの会議について思われていることを聞かせてください。

川崎:第1回締約国会議ですが、国連事務総長が招集し、オーストリア政府がホスト役を務める形で行われます。そこでは条約の今後の運用について話し合われます。「禁止から廃絶へ」ということに対して色々なシナリオを書いていくことが議題になるとおもいます。

それと現在締約国は54ですが、これをもっと増やしていこうということと、そのためにどうするかということが話し合われます。ICANは当面、国連加盟国の過半数以上となる100の締約国を目指しています。
また、核保有国が参加してきた場合の、核の解体から廃絶までの道筋を決めていくことも大事な議題になります。
そして締約国会議とNPT再検討会議は相互に刺激し合って、相互に前進する形になることが理想です。

禁止条約に対して核保有国は反対の立場をとっていますから、保有国が参加するまでには時間がかかります。それでも将来核兵器保有国が入ってくることに備えて、締約国会議は準備をしています。
核兵器禁止条約の中心にいるのは条約に締約した「核を持っていない国」です。これに対してNPTの中心になるのは「核を持っている国」で、核を持つ国をこれ以上増やさないことが主眼です。
核兵器禁止条約ができたことで、核保有国は怒っています。「せっかくNPTの下で核軍縮をやってるのに、いきなり全面禁止とはどういうことだ?」
というのが彼らの言い分です。

そういう彼らに問いたいのは「ならば私達にわかりやすく、核軍縮の道筋を示してください」ということです。
それに対して、核保有国が「我々は即時、全面禁止に賛成出来ないが、具体的にこのスケジュールで核兵器を減らしていく(先制不使用の徹底、核弾頭の削減数の明記等)」ということを示してくれれば、同じゴールに向かっていきますよね。
核兵器禁止条約とNPTという二つの条約がそのように相互に良い方向に刺激し合えばよいと思います。

しかし、これからの道筋に不安がないわけではありません。その一例として、先日(3月16日)イギリスが核軍備を増強することを発表しました。

:イギリスは何故核軍備の増強を決めたのでしょうか?

川崎:ジョンソン政権の性格でしょうね。イギリスがEUから離脱したことは、国際協調よりも自国中心主義に傾倒してきたことの表れです。今回の発表も同じく、国際協調より自国の軍事力を国内外に示すことを選んだということだと思っています。

アメリカもトランプ政権からバイデン政権になり、自国中心主義が終わって国際協調に向かうと思われているかもしれません。しかし実際には大統領選は大接戦だったわけですね。未だ半数近くの米国民がトランプ的な自国主義を支持しているわけです。イギリスも同じように自国中心主義の傾向を強く持つ首相と政権であることが、今回の発表に繋がっているのだと思います。この自国中心主義というものは大小様々な形で、世界の隅々に蔓延しています。私達はそういった世界の流れを警戒していかなければならないと思っています。

:ありがとうございます。川崎さんの紹介も含めて、核兵器廃絶に関心を持ったきっかけを教えてください。ICANに参加された経緯も聞かせてください。

川崎:1968年、東京生まれです。現在は神奈川に住んでます。中学生の時(1982年)に初めて父親に広島へ連れていってもらいました。当時は反核運動の盛り上がりが凄い時代で、大規模な反核デモを目の当たりにしました。8月6日には平和式典にも参加し、物凄い数の人が慰霊碑の前に集まり核廃絶を訴えているのを見ました。とても暑い日だったことを覚えています。その後、大学生の時に湾岸戦争に興味を持って仲間たちと反戦活動を始めたのが、平和問題に関わるようになったきっかけですね。

大学を卒業後、障害者介助の傍ら市民グループでの平和活動や外国人労働者・ホームレスの人権活動を経て、2003年からピースボートの活動に参加しました。ICANとの関りは、ピースボート創立25周年を迎えた2008年の「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」(注6)プロジェクトで、ヒロシマ、ナガサキの声を世界に伝えたいということをテーマに、被爆者の方々を102名招待して世界中を回った時の事です。

ICANは2007年、オーストラリアで設立されました。ピースボートでオーストラリアのシドニーに入港した時、被爆者による記者会見を行なったのですが、ICANの創設者グループも加わっていて私たちの活動を頼もしく思ってくれたようです。その後、ICANの運動を世界に広めるために日本も加わってくれないか、ということでピースボートが正式に参加したのが2010年です。

:ICANがこれから世界へ働きかける活動について聞かせてください。

川崎:条約が出来るまで、私達は条約を作ることを軸に活動してきました。今回発効されたことにより次のPHASE(段階)に移ってきたと思います。それは各国のICANがそれぞれの国で活動していくということです。コロナの影響でお互いの国へ行けなくとも、オンラインでお互いの情報はアップデートしていけますしね。

当面の私の役割としては、日本を条約に参加させるということです。アメリカと同盟関係を結んでいる日本が条約に参加すれば、核保有国に関係している各国の意識も変わっていくと思うんです。

唯一の戦争被爆国である日本が批准することは、世界に大きな影響を与えるでしょう。日本での動きはそのまま世界への大きな流れになっていくと考えています。ICANがこれから活動することは国内運動であり国際運動であるわけです。

:私たちが今条約をより良いものにするためにできることを教えてください。そして今冊子を読まれている方々にメッセージをお願いいたします。

川崎:いろんな所で核兵器禁止条約を話題にしてほしいと思っています。そして発信をしてほしいと思います。発信で言うとTVメディアが代表的ですが、日本は比較的、核問題を取り上げてきているんですね。毎年8月には特集がいくつも組まれていますし、そういう点ではさすが被爆国だと思っています。他国では核問題は殆ど大きく扱われません。その中でICANの活動が世界規模でこれまで続いてこられたのは、其々のSNSを駆使してお互いがアップデートし活動を共有していったからです。マスコミがやらないのなら自分達のソーシャルメディアで発信する、ということを続けてきたからこそ今回の条約を発効出来たのです。

例えばこの冊子を読んで思ったことをそれぞれがSNSで議論し共有していってほしいと思いますし、私にもその意見を聞かせてほしいです。

SNSが苦手な人は友達であれ、ママ友であれ、家族であれ、身近な人で言いやすい人達に核兵器はいらないということを伝えてもらいたいです。共感や関心を持ってもらえることから広がりが生まれます。

またSNS発信が苦手な理由に「叩かれることがある」という人がいます。ワーワー反対意見をいってくる人と戦う必要はありません。日本に絶対核兵器は必要だ、核兵器禁止条約はいらない、と思ってる人は凄く少ないわけですし、そもそもその人達を説得する必要はないんです。むしろ、その人達が圧倒的少数派なんだということを示せればいいんです。5パーセントの人が核兵器は必要だといっても95パーセントの人が必要ないと示せばこちらが勝つわけです。その95パーセントの人たちに皆さんが想いを届けていくということが最も確実な一歩になる思います。


※注1: 条約採択後に核兵器に対する企業への融資を禁止した日本の銀行
りそなホールディングス、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、ゆうちょ銀行、広島銀行等 17銀行

※注2:非核三原則の密約について
2009年、当時の民主党、岡田克也外相が調査を命じた4つの密約のうち、外務省の有識者会議(座長・北岡伸一東大教授)の報告書(2010年3月9日)は、1960年の日米安保条約改定時に核「持ち込み」をめぐり日米間に「広義の密約」があったとした。より一般的な言葉を使えば、それは暗黙の了解・合意だったといえる。(2010年3月、20日、日本経済新聞より抜粋)

※注3:非核地帯(非核兵器地帯)について
国際条約によって、核兵器の生産、取得、保有及び管理などが禁止された地帯のことをいいます。また、核兵器国(米、露、英、仏、中)が当該地域への核兵器による攻撃や威嚇を行うことも禁止されています。これまで、1959年の南極条約、1967年のラテンアメリカ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約、現在の正式名称はラテンアメリカ及びカリブ地域核兵器禁止条約)、1985年の南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)、1995年の東南アジア非核兵器地帯条約(バンコク条約)、1996年のアフリカ非核兵器地帯条約(ペリンダバ条約)などによって、南半球の大部分は非核兵器地帯となっています。(広島市ホームページより引用)

※注4:北東アジア非核兵器地帯
大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国、日本の3カ国(以下、「地帯内国家」)で日本の非核三原則をモデルに非核兵器地帯条約を締結し、中華人民共和国、ロシア連邦、アメリカ合衆国の周辺3カ国(以下、「近隣核兵器国」)が、地域内国家3カ国に対する核攻撃をしない「消極的な安全」を保証する議定書に参加するという方式(スリー・プラス・スリー)で、東北アジアに非核兵器地帯を創設する構想に基づく。(Wikipediaより引用)

※注5:2021年4月16日午後(日本時間17日午前)、ワシントンで菅義偉首相とバイデン米大統領が会談。
     2021年3月の日米安全保障協議委員会の共同発表を全面的に支持した。日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した。米国は、核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した。(2021年4月17日、日本経済新聞より抜粋)

※注6:「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」(通称:おりづるプロジェクト)
ピースボート創立25周年を迎えた2008年に始まったプロジェクト。広島と長崎の原爆被爆者が船旅の各寄港地で被爆の体験を語り、世界中に核兵器廃絶を訴えている。これまでに180名の被爆者が参加。現在はコロナの影響もあり、オンラインを通して活動を続けています。

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※核兵器禁止条約以前の核兵器に対する代表的な条約:
●包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test-Ban-Treaty、略称:CTBT)
●核拡散防止条約 (Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons、略称:NPT)
●新戦略兵器削減条約(New Strategic Arms Reduction Treaty、略称:新START)
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【核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)】 International Campaign to Abolish Nuclear Weaponsの略。核戦争防止国際医師会議(IPPNW、1985年ノーベル平和賞受賞)を母体とし2007年に豪州メルボルンで発足。日本のピースボートなど106ヵ国、620のパートナー団体を持つ。スイスのジュネーブに国際事務所を置く。有志国政府と連携して国際会議へのNGOの参加を促したり、核兵器禁止条約を求める国際世論を高めたりするために、メディアやネットを使ったキャンペーンを展開してきた。ICAN 公式Twitterアカウント

※ICANの活動で興味深いサイトを掲載させてもらいました。

議員ウォッチ
核兵器Yes or No!? 日本の全国会議員の核兵器問題への立場を可視化する取り組みです。

解説!核兵器禁止条約
川崎さん自らが核兵器禁止条約についてわかりやすく映像で話してくれるサイトです。

おりづるプロジェクトオンライン
全世界190カ国でオンラインを中心にした被爆証言会を実施していくプロジェクトです。

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