現実と理想のギャップを超えて、人から人へと伝播する平和

小松 雄二郎 / blackmeans

今年のはじめ、1月22日に核兵器禁止条約が発効され、核廃絶のベクトルが平和に向かって確実に伸びていることを実感しています。
地球環境についても、私が10 代の頃より50 年近くを生きた昨今の方が、様々な保全運動や取り組み、日常での配慮などの動きが明らかに活発になってきています。核兵器の恐怖を自らの経験から証言できる方々や、その当時の状況をうかがい知る機会は年々減っていき、少しずつそんな記憶が風化していく中で被災地である日本だけでなく、世界中の方々が平和のために行動し、その想いが実を結んだひとつの形が先の核兵器禁止条約です。

世界が正しい方に向かい、私達やさらに若い世代へと平和のバトンが渡されているのは本当に素晴らしいことだと思います。
私はこれまでに2回、『to future』に寄稿させて頂きました。一度目は2017年。前回は2018年。

そして、1945 年から数えて76 年が経った今年、2021年。
この“76”という数字は日本が戦争を止め、平和を保ってきた証して、私達日本人が誇るべき財産だと私は考えています。
私はblackmeansという洋服のブランドと、guyさんにご協力頂いているHIROSHIMADENIMというデニムのブランド、それぞれで物づくりに従事しています。
私たちのブランドに限らず、一般に流通する洋服には製品品番という管理番号があります。
blackmeansで言えば、945-76-TJ01 といった具合です。
公言するのは今回が初めてですが、これは945(1945)年から、76 年目のT(“冬至”の頭文字で秋冬シーズンを表します。春夏は“夏至”のG)を意味しています。その後のJは“Jacket”の略ですね。
シーズンレスに展開しているHIROSHIMADENIMでは、G、Tの季節記号を省き、“HD”というイニシャルが追加されます。
これはブランドスタート当時から採用しているやり方で、型番の頭は常に固定の“945”、次の数字は終戦後からの年数で、今年の場合は76となります。
そこに省略していた1000 年を足した年号がその製品の製作年ということになります。
すべての製品番号で、日本が平和を始めてからの年数をカウントしています。76 年目にしてようやく実現した核兵器禁止条約をさらに拡げていくためにも、微力ながら私も私なりのやり方で平和のために出来ることを考え、実践していこうと思っています。

しかし、世界が確実に前進している一方で、まだまだ課題は山積みで平和のための意志統一とは程遠いのが実情です。
昨今の情勢に関してもうひとつ、この機会にお話したいことがあります。
「在日アメリカ軍基地を撤退しろ!」
「自衛隊基地建設を許すな!」
「憲法改正を許すな!」
あるとき、そんな風に声高に主張している人を見かけました。「この人大丈夫かな?」というのが私の正直な感想でした。
それでは、私達日本はどうやって有事の際に自国を守るのか、答えてほしいものです。
そして、それと同じ質問を自分自身にも投げかけました。
これがテストであれば、憲法を一部改正して軍備を強化する。と、私は答えるでしょう。
でもそれを公言しようとすると平和を提唱する上で、大きな矛盾も生まれます。
平和と現実を考える時に、こうした矛盾と葛藤に苛まれるのは私だけでしょうか?

これはそのまま、憲法第9 条と自衛隊保有という言行の乖離であって、理想と現実との間で揺れる日本人の心中を端的に表しているのではないだろうか、と私は思っています。
そんな現状にもどかしさは感じつつ、自分自身は理想だと思える平和的活動を最優先し、決して絶やす事なく続けた上で、現実と向き合っていこうと考えています。
核兵器禁止条約。現在は80から90 ヶ国程が署名している状況ですが、もしこの署名が国ではなく、全世界の人達の運動となったらどうなるでしょうか?
核保有国も含めた大半の国の人達がそこにサインするのではないか?と、私は思うのですが、皆さんはどう思いますか?
もしかしたら各国の政治的思惑や一部の特権階級の都合に左右されず、世界の人々が望む平和を実現出来るのではないか。
そんな風に想像してしまうのは、私が理想主義なだけなのでしょうか。
人から人へとつなぎ、平和を拡散させていくこと。
それが『to future』を通して私にできる平和を実現するための手段のひとつです。
今年、2021年の8月6日には、昨年の同じ日よりも世界が平和へと近づいていることを噛みしめつつ、その先もずっと平和を願い続けていこうと思います。

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