特別対談「核兵器禁止条約の発行とその未来」

2017年7月7日に国際連合総会で採択され、今年1月22日に発効された核兵器禁止条約。核兵器を全面的に禁止する世界初の条約が発行されたことで、これから世界はどうなるのか。我々はどのように考えていくべきか。小誌のオーガナイザーであるガイを筆頭に、核兵器に反対するミュージシャンが集結。その様々な想いを語り合った。

対談者

イシヤ(1967年生まれ・東京都出身)
FORWARD/DEATH SIDE

アズサ(1980年生まれ・長崎県出身)
STAGNATION/C/ESPERANZA/Ein Schwert
所属=NAGASAKI NIGHTMARE production

ガイ(1965年生まれ・広島県出身)
Origin of M
所属=to future production

茂木洋晃(1974年生まれ・群馬県出身)
G-FREAK factory

ガル憎(1974年生まれ・広島県出身)
ギチ/DAZE BAND

ガイ「今日はよろしくお願いします」

一同「お願いします」

ガイ「いきなり本題に入らさせてもらうと、俺、核兵器禁止条約が発効されればすべて(核廃絶への道のり)が上手くいくと思ってたのね。でもどうやらそんなの甘い考えでさ。その前に核兵器禁止条約について一般の認知度っていうのが自分が思ってた以上に低いことを感じたのね。だから今年の『TO FUTURE』では、まず核兵器禁止条約というものを知ってもらおうと。こうして核兵器禁止条約に賛同する俺らで語り合うことで、自分たちの理解も深めて、進めていこうと思います。それが読んでる人にも伝わればいいなって思ってます」

茂木「なるほど。認知と理解ですね」

ガイ「そう。まずは認知してもらって、これは素晴らしい条約なんだってことを理解してもらえれば」

イシヤ「その前に核拡散防止条約(以下NPT)があるじゃん。今回のは、あれを強力に後押しするような条約だよね」(※核軍縮を目的にアメリカ合衆国・中華人民共和国・イギリス・フランス・ロシア連邦の5か国以外の核兵器の保有を禁止する条約)

アズサ「そうですね」

イシヤ「ただ、NPTでは製造や譲渡を禁止してない。あくまで核軍縮。ようするに核を禁止する条約じゃないんだよ」

ガル憎「アメリカ、中国、イギリス、フランス、ロシアは持ってていい。それ以外の国が保有しちゃダメという条約ですもんね」

イシヤ「そう。でも今回のは、核兵器を作る、持つ、使うだけじゃなくて、核兵器に関わることがすべて禁止になる。つまりNPTと合わせることによって大きな抑止力になっていくんだけど、最大の問題点は、核保有国がどちらにも批准(=同意)してないってこと」(※核兵器禁止条約には全ての核保有国が不参加、NPTではインド、パキスタン、イスラエルが不参加、北朝鮮は脱退)

アズサ「そう。そこなんですよ」

茂木「なんせ、彼らはそれ(核兵器)で外交をやってますからね」

ガイ「たしかにNPTによって核兵器が減った部分はあるんだけど、なんだろうなあ。結局のところ、核兵器の脅威が無くなったワケじゃないんだよね」

ガル憎「ちなみに、NPTが発行されてから今年で51年になります」

茂木「半世紀も経ってるんだ」

イシヤ「結局はさっきの5カ国の問題っていうかさ。もう、ヤツらぜんぜん話を聞かねえじゃん。国連の話だって聞かなかったりするし」

茂木「その5カ国の中で今回のような話が大きく取り上げられたりはしないんですかね?」

イシヤ「しないんだよなあ。脅威の張本人のクセに」

ガイ「その核保有国に感じる希望として、2009年のオバマのプラハ演説があると思うのだけど」(※チェコの首都プラハのフラチャニ広場にて当時のアメリカ合衆国大統領バラク・オバマが核廃絶へ具体的な目標を示した演説)

アズサ「広島に来る前ですか?」

ガイ「そう。核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として、核なき世界、世界の平和と安全を追求する決意をオバマが明言した。あれは俺の中では大きなポイントだったのよ。で、実際に広島に来た」(※2016年5月27日、米国の現職大統領として初めて被爆地・広島を訪れ、平和記念資料館を視察。原爆死没者慰霊碑にも献花をした)

ガル憎「演説後のオバマが被爆者の方を抱擁しましたよね。あれは見てて感動しました」

ガイ「会社員をしながら米兵捕虜の被爆死を研究し続けた方よね。森重昭さん。その抱擁の写真は世界中に発信されたもんね」

アズサ「個人的には、俺の地元の長崎にも来てほしかったですけど…」

ガイ「たしかに。それこそ8月6日に広島に来れば、その流れで8月9日の長崎にも行けるしね」

イシヤ「そうだよなあ。6日と9日だろ? 合間の2日間は遊んでていいから、長崎にも行ってほしいよなあ」

アズサ「思います。すげぇ思います」

茂木「うん。ホントそうだね」

ガル憎「ただ、少なからず、それまで、つまり2008年より前までは進歩があったということですよね」

ガイ「そうだね。戦後から70年以上、一度もオバマのような形でアメリカの大統領が来たことは無かったんだから」

アズサ「2009年がプラハ演説、2016年が来日。少しずつ前進してるの…かな?」

イシヤ「でも、たとえばアメリカが核兵器を作るのヤメますって言っても、原発は作れたりするじゃん。原発は禁止されてないワケだから。ウランさえあれば簡単に作れちゃう。本当は、核兵器も原発もぜんぶ無くすってのが理想なんだよな」

茂木「ある意味、原発を持ってることが、そこにミサイルを打ち込めないっていうカードにもなってますもんね」

アズサ「ああ、なるほど」

イシヤ「核兵器禁止条約に批准してるのって54カ国?」

ガイ「そう」

イシヤ「ただ、小さい国が多いんだよな」

茂木「ええ。それどころか核兵器を持ってない国ばかりなんですよね。核でマウントを取ってて、経済にすら利用してる大国が総じて批准してない」

イシヤ「たしか中国は拒否っていう立場じゃなかった?」

茂木「拒否?」

イシヤ「そう。ノータッチみたいな姿勢」(※中国政府は「核兵器禁止条約を認めず署名する意思もない」と公式に明言している)

ガル憎「あとは、日本が批准してないっていうのが俺としては信じられないんですよ。唯一の被爆国なのに、なに考えてんだっていう。個人的には批准の第一号になってしかるべき国だと思う。批准しないなんてめちゃめちゃ頭に来るし、恥ずかしいことだと思うんですけど」

イシヤ「しょうがないじゃん。日本はアメリカの腰ぎんちゃくなんだから」

アズサ「アメリカに対しておんぶに抱っこなのはしょうがないかもしれない。でも、これだけは批准してほしいです。もう、絶対に」

ガル憎「日本の批准って、相当な影響力があると思うんですよ。それこそ批准国も一気に増える可能性が高い」

茂木「被爆者の方々も、戦後から75年以上も経ちましたけど、今回の核兵器禁止条約っていうのは本当に待ちに待ったことだと思うんですよ」

アズサ「そうですよね」

茂木「そういう方々って、戦争に負けたことが恥ずかしいとか勝ったことが素晴らしいとかじゃなくて、被爆したり人が命を失ったり、人が人を殺めたり、すべてが正気の沙汰じゃなく狂ってたあの時代のことを伝えてほしいんだと思うんです。そういうものを伝えることが、より核を身近に感じさせる。身近な脅威にさせるんじゃないかって」

イシヤ「まず民間レベルで気づかなきゃダメだよな」

茂木「民間レベルです、ええ」

ガイ「俺ね、恥ずかしい話だけど、核兵器禁止条約の話を初めて聞いた時(2011年)に『無理だろ〜』って思ったのよ。NPTですら理想的な形になってないのに、世界中の核兵器を全面禁止するなんて絶対に不可能だって。それが民間レベルなら、なおさらだと」

茂木「絵に描いた餅みたいな」

ガイ「そう! それで、下手すりゃ条約の名前すら忘れてた2017年に、国連で核兵器禁止条約が採択されたと知ってびっくりしたのね。続いて、その条約採択に多大なる功績を果たした国際NGO、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞し(2017年12月10日)、その流れで、広島の被爆ピアノ(※原爆の被害に遭いながら修復されその音色を取り戻した戦争の生き証人とも言えるピアノ)がノルウェーのオスロで開かれた『ノーベル平和賞コンサート』で演奏されることを知って驚いたよね。というのもね、2017年8月20日に俺が代表を務める災害支援団体で開催したSTHフェスで、被爆ピアノを初めて招聘して、タテタカコっていうアーティストに弾いてもらったばかりだったからさ」

ガル憎「被爆ピアノが奏でる音、そしてタテタカコの歌。あれは素晴らしかったです」

ガイ「広島で被爆して戦争の悲惨さを訴え続けてたカナダ在住のサーロー節子さんが取り上げられていたのも驚いたよ。2011年以降の活動の中でサーロさん出演の映画『ヒロシマ・ナガサキ ダウンロード』を観に行ったことがあるんだけど、その映画監督の竹田信平さんとも何度も会ったことがあるし、この『TO FUTURE』にメッセージを頂いたこともある。被爆ピアノ、核兵器禁止条約、在外被爆者のサーロさんにICANと、これまで活動してきた中で知り得た事柄がひとつになったような気がしたんだよ」

アズサ「その時に聞いた名前が急に耳に入ってきたってことですね」

ガル憎「核兵器禁止条約の発行は今年の1月。流れとしては、2017年にその一歩手前まで来たっていうことですね」

ガイ「うん。その時に俺が気づいたのは『無理だ無理だ』って思わなかったら、ひとつずつ形になるんだなってことなのよ」

アズサ「民間レベルであっても世界を動かせるってことですね」

ガイ「そうそう。そこで気になるのが、民間でも世界を変えれるきっかけをつくったのが今回の条約なのに、条約を受けた広島、長崎両市民自体が盛り上がってないんだよね。もっとみんなワ〜っと盛り上がるかと思ってたんだけど」

ガル憎「今回、ガイ君が被団協(日本原水爆被害者団体協議会)理事長の佐久間さんにインタビューされて、そこにも書いてあるんですけど、広島市の平和推進課に『発効を受けて、市をあげて歓迎し、庁舎に懸垂幕を掲げてほしい』というお願いに行ったらしいんです。でも、市の返答は『ホームページ等で禁止条約について掲載しているから懸垂幕まであげる必要はない』ということだったみたいで」

ガイ「懸垂幕…ようするに垂れ幕ね」

茂木「なんか寂しいなあ、そういうの」

アズサ「別に懸垂幕くらい掲げてもいいのになあ」

ガル憎「あと、広島市が平和条例の素案を発表したんだけど、核兵器禁止条約についての明記は無かったとも書いてありました」

イシヤ「行政がそういう姿勢となるとより一層、民間レベルだな」

茂木「我々も含めて…ですね」

イシヤ「例え話としては極端かもしれないけどさ、ヤクザがいるでしょ。でも、いまのヤクザと昔のヤクザってぜんぜん違うじゃん。暴対法ができてから、銀行から金を借りられない、口座も作らせてもらえない、ローンも組めないから下手すりゃ車も買えない。どんどん衰退していったじゃん。言っちゃえばそれと同じだよ、核兵器禁止条約も」

ガル憎「核保有国に対してしっかり適用できれば、衰退せざるを得ない…と」

茂木「がんじがらめで『もう核兵器とか無理!』って。そうなればいいな」

ガイ「さっき話したICAN。その国際運営委員の川崎さんにインタビューした記事を今回掲載してるんだけど、まさにそういう話が出たのよ。核兵器禁止条約の採択から発効を受けて、世界中の銀行が核兵器に融資することを禁止し始めたって。日本でも17の銀行が核兵器製造企業には融資しないという指針を持ってるんだって」

イシヤ「経済界からの締め付け。同じ理屈じゃん。時間はかかると思うけど、それでどんどん立ち行かなくなる。ヤクザだって暴対法ができた当初は『関係あるか!』って言ってたんだから」

アズサ「でも、関係ありまくりだった」

ガル憎「ちなみにこれも川崎さんのインタビューからの引用なんですけど、自分的にすごく納得した話があって」

茂木「どんな話なの?」

ガル憎「かつては『奴隷制度』というものがあり、当たり前のように行われていた。でもそれは許されないものだという世論が広がり、いまではありえない制度というのが世界共通の価値観となっていると。そのとおりだなと思って。考えられない制度だけど、昔は現実としてあった」

茂木「なるほど」

ガル憎「だから、やがて『核兵器なんて作ってた時代があったの?』となっても、なんらおかしくないなと。だってもう、いまの時点でダメなものってことは分かってるんだから」

イシヤ「奴隷制度もだし、魔女狩りもアパルトヘイトもそう。あと、ナチスがやったホロコースト。あれですら合法とされてたんだから。いまじゃ考えられないよ」

アズサ「いや〜。考えられない」

茂木「ただ、無くすまでに時間はかかりますよね」

イシヤ「かかる。時間はかかるよ。だから今回の核兵器禁止条約にしても、あと50年くらいで完全な結果を出さないとヤバいと思うよ。たとえばあと10年。2031年とかそのくらいまでの間に取っ掛かりとして基本的な事実を世界中の人に理解させる。賛成とか反対は置いといて、人類が完全に理解するレベルになってないとマズいと思う」

アズサ「そういう世界的な理解を経て、実際に核兵器を廃絶する方向に数10年かけて向かっていくと」

茂木「とんでもなくコントロールできないようなものを作り出して、そいつが最強なんだよってことになったワケじゃないですか、第二次世界大戦で」

イシヤ「つまり核兵器ね」

茂木「ええ。でも、それを解くことができるようになったんだぞ、禁止できるようになったんだぞって」

ガイ「核兵器禁止条約の批准国は、原爆も落とされてないし持ってもいない。でもそれがダメなことを知ってて、しっかり手を挙げてるワケじゃん。だったら日本はもっともっと核兵器に敏感であっていいと思うんだよね」

ガル憎「もっと過剰でもいいと」

ガイ「そう。たとえば8月6日の広島市長、9日の長崎市長も、もっともっと国にとって耳が痛いようなことをガンガン言ってさ、核実験があったらすぐに怒って、県民や市民が集まって数万人規模のデモ(抗議)をする。これって、国にとっては相当なプレッシャーになると思うんだよ。コイツらすぐに怒るなあ、面倒くせえなあって煙たがられるくらいでいい。いまだと被爆者団体や平和団体が平和公園に集まって抗議してるけど、もっと大きな規模で、広島と長崎の市長も県知事も市民も県民も、みんなが当たり前のように動くような流れになったらいいな」

ガル憎「広島、長崎の意識をそう変えられたらいいですよね」

茂木「被爆者の方々の声をもっと届けたいですね。皆さんもう高齢で時間が無いワケじゃないですか」

アズサ「あと10年、20年と経てば、被爆者、戦争経験者の方々がいなくなってしまいますからね」

茂木「そう。だから時間が無いんですよ。そういう方々がいなくなると原爆や戦争の話が昔話みたいになっちゃう。でも、いまはまだ聞ける。ただ瀬戸際、本当に際だから、より多くの声は聞きたいし残したい。もちろん、核兵器禁止条約の認知と同時進行で」

アズサ「僕は普段『NAGASAKI NIGHTMARE』という反戦ライブイベントを東京でやってますけど、去年、そういうイベントを地元の長崎でやろうとしたんですよ。ガイ君がやってる8月6日の『TO FUTURE GIG』みたいなライブイベントに、語り部として被爆者の方を呼んで話をしてもらおうと思って」

イシヤ「いいじゃん」

アズサ「ただ、結局コロナがあって中止になっちゃって。悔しかったですよね。長崎からそういう発信をしたかったのに。反戦とか反核っていうことになると、広島より弱い部分があるんですよ、長崎は。だからこそやりたかったんです」

茂木「逆にコロナになったことで世界が変わった。これまでものすごいスピードで走ってきたんだけど、コロナで価値観がめちゃめちゃ変わったと思うんです。これって、いろんなものの在り方とかを考え直すチャンスじゃないかなって。世界的な危機だけど、逆にこんなチャンスは生きててもう無いと思いますね」

イシヤ「こういうのは、若い子にもかかってるんだよ。コロナで若い子たちの意識も変わったハズだから、大切なものはなにか、伝えていかないとね」

ガイ「若者が希望っていうのは不変よね」

イシヤ「もちろん」

茂木「たとえばその若者、子どもたちに『この先は真っ暗だぞ』ってことは言いたくないじゃないですか」

ガイ「そう。だから今回で言うところの核兵器禁止条約。君たちの世代で核なき世界を実現させることができるかもしれない。未来は希望に溢れてるんだよって言ってあげたい」

茂木「いいですね、それ。いいです」

ガル憎「あと、この冊子を手にしてくれている人は、一般の人よりも反戦や平和に興味があると思うんで、俺らがこうして話してる気持ちとか、核兵器禁止条約を広めるべきだっていうのは絶対に分かってもらえると思うんです。だからこそ、冊子を持ってない人や周りの人に伝えてほしいですよね」

ガイ「そうだね。草の根運動じゃないけど、みんなで伝えていけば少しずつでも広まっていくもんね」

茂木「そうですね。口頭でもSNSでも、それぞれの方法で広めていく」

イシヤ「音楽でもいいよな」

アズサ「いいですね。どんどんやっていきましょう」

ガイ「読者の皆さんも、核なき未来のために是非、ご協力をお願いします」

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